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書評『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』

来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題 (幻冬舎新書) 

 さて、久々に書評である。気がつけばカテゴリーから書評がなくなってしまって久しい。そして、書評としながら書評を書かないのが当ブログの書評である。私自身向いていないと思うが、とりあえず始めてみよう。

 

 本書は文庫ということもあり、私は本書をもっぱら移動中の読み物として読んだ。そのため本書を分割的、断片的に読んでしまった。だから、本書評では総評ではなく、印象的であった点について話そうと思う。

 

 本書は小平市都道328号線問題のあらましを現行の民主主義を哲学的にフォーカスしながら書き直した報告書である。 著者が実際に小平市都道328号線問題の住民運動に参加しながら、運動を通じて覚えた疑問を哲学的見地から再考証したものだ。

 

  小平市都道328号線問題を一言で言うならば、昔の道路計画が急に実行されることになり、今にして思えば不要とも思える道路に、多くの住民が計画の中止を訴った問題である。実際にこの住民運動はメディアの注目を浴び、大きな社会問題として取り上げられたようだ。

 

 そのような点からみても、本書は当時に読んでおきたい内容の本であったと言える。だから、対象となる読者はこのような社会問題や住民運動に興味を持つ人びとということになる。そして、注目すべきは、著者である哲学者國分功一郎の視点で見た住民運動が語られている点である。

 

 ここで勘違いしてほしくないのは、本書は住民運動を哲学的視点で語った本ではなく、あくまで哲学者である著者が住民運動に参加して得た経験を語った本であるということだ。だから、本書における哲学の占めるウエイトはそれほど多くは無い。

 

 しかし、その多くは無い、所々で語られる哲学的発想が本書の一番の売りだろう。都道328号線問題の顛末や政治哲学の諸問題の内容は本書を読んでいただくとして、ここは以下に興味深かった点を紹介しておこうと思う。

 

1.政治とは何か?

 そもそも政治とはなんだろうか? この疑問に対して本書ではドイツの法哲学カール・シュミットを挙げて、政治の究極的な問題とは「敵か友か」という区別であると定義する。

 

2.「主権」とは何か?

 近代政治理論の成り立ちを紹介しながら、主権とは立法権であると定義する。だから、今日の議会制民主主義においては、議会こそが主権を行使する場所と定義されているのだ。

 

3.民主主義とは何か?

 ここではジャック・デリダの思想を挙げながら、民主主義は実現されてしまってはならないものであり、同時に絶えず目指されなければならないものであると定義する。

 

まとめ 

 本書では、小平市都道328号線問題に関する住民運動で生じた抜本的な疑問に対して、哲学者らしい議論と本質的な回答が添えられている。このような運動を進めるに当たり存外に見失いがちな問題の定義を思い出させてくれる本書は、やはりこのような住民運動に関わる人々に読んで欲しい書籍である。

 

 そして、小平市都道328号線問題や住民運動に関心を持たなかった人でも、現在の政治体制の中で住民運動がどのような効力を持っているのか。そして、それをより良く変えていくためにはどのようなことが必要であるか。そういうことを考えるキッカケを与えてくれる本である。

蛇足…

あれ?案外普通の書評になったぞ?